第303回 長野県眼科医会集談会 特別講演抄録
ドライアイ治療の新機軸 -角膜を知覚センサーの集合体と捉え、ドライアイを治療する-
杉浦眼科 﨑元 暢
本邦におけるドライアイ診療は、層別診断・層別治療という考え方が普及しており治療薬のラインナップも豊富です。しかし、上皮障害や摩擦亢進所見がなくその前眼部所見が「軽い」にもかかわらず強い異物感を訴える症例、あるいは治療によって他覚所見が改善しているにもかかわらず自覚症状が残ってしまう症例が一定数以上存在し、対応に苦慮することがしばしばではないでしょうか。
一方で、従来はその透明性の維持にばかり目が向けられていた角膜も、疼痛だけでなく温度覚なども探知する知覚センサーの集合体であることが近年の研究で明らかとなっています。角膜表面の温度覚を通じて涙液分泌や乾燥の探知も制御されており、角膜知覚神経は眼表面の恒常性維持に欠かせない役割を担うとされています。さらにドライアイでは、炎症における疼痛の発生、冷覚刺激低下による涙液分泌異常、BUT短縮型ドライアイにおける知覚過敏状態、さらに慢性的な涙液層の安定性低下に引き続く疼痛閾値の低下などが報告されており、感覚神経異常もドライアイの病因の一つとして考えられるようになってきています。
そのようななか登場したモツギバトレプ点眼薬は、ポリモーダル(=多数の様式)侵害受容器(=知覚神経)であるTRPV1を抑制することで、ドライアイにおける痛みシグナルを始めとした様々な知覚刺激を抑えることができるという新規の作用機序を持つドライアイ治療薬であり、ドライアイ症例の自覚症状の緩和に役立つことが期待されています。
本講演では我々の研究成果も交えながら、ドライアイ治療の新しいストラテジーについて考えていきたいと思います。