第300回 長野県眼科医会集談会 特別講演抄録

全身因子と緑内障

島根大学医学部眼科学講座 教授 谷戸 正樹 先生

緑内障は加齢とともに発症・進行し、全身因子が複雑に関与する疾患である。老化は加齢に伴う生理機能の低下と捉えることができる。本講演では、緑内障を全身老化疾患の一つとして捉えて行ってきた、演者らの研究成果を中心にお話ししたい。特に,緑内障診療への高齢者機能評価の導入,緑内障と生物学的年齢,落屑緑内障の病態考察,食事成分と緑内障,血圧と眼圧,緑内障病態理解のための新たな枠組み,をトピックとして取り上げる。指尖皮膚センサーを用いた糖化終末産物、カロテノイドレベル、血管脈波解析は、眼科外来で施行可能な全身リスク評価の指標となり得る。また、MiniCog、G8、Charlson併存疾患指数などの高齢者機能評価は、患者の全身状態を包括的に評価するために有用であり、緑内障における新たな個別化医療の実現に寄与する可能性がある。AIの利活用の中で、高精度の画像解析技術を用いた研究が進んでいる。さらに、大規模言語モデルによる実臨床テキストデータ解析の一例として、BERTを活用し、診療録から血圧や併存疾患のデータを効率的に抽出し、眼圧との関連性を評価した結果を提示する。緑内障の病態生理に関与する要素を包括的に捉える概念として、緑内障病因複合体(Glaucoma Etiology Complex, GEC)を紹介する。GECは、年齢、遺伝的要因、眼圧、血管因子、炎症、生活習慣などの複雑な相互作用を示すフレームワークであり、緑内障を全身老化疾患として理解し、より効果的な診断・治療戦略の設計の基盤を提供しうる。緑内障の発症と進行に与える影響を多角的に検討することが、緑内障による視覚障害を克服するためのポイントとなる。