第236回長野県眼科医会集談会 特別講演 l

「緑内障の診断と治療への新しいアプローチ」

愛媛大学大学院医学系研究科 視機能外科学 溝上志朗

 正常眼圧緑内障の有病率が高い我が国では、視神経乳頭形状の正確な評価は眼科臨床医にとり非常に重要なスキルとなりつつある。近年改訂された緑内障診療ガイドラインにも、「視神経乳頭・神経線維層変化判定ガイド」の項目が新たに盛り込まれた。しかし実際の臨床では判定に難渋するケースは少なくない。このような背景で、「緑内障か非緑内障かの鑑別を眼底画像解析装置により行いたい」 あるいは 「眼底画像解析装置により判定根拠の客観性だけでも担保したい」 との声は高まりつつある。OCTは近年目覚ましい進化を遂げた。高速なスペクトラルドメイン方式は、高解像度の3次元網膜断層像を得ることを可能とした。ではこの最新鋭のOCT、緑内障早期診断にどれぐらい有用なのだろうか?
 緑内障点眼薬は現在、続々と新薬が上市されている。それらはいずれも優れた眼圧下降効果と、点眼回数の減少によるアドヒアランス向上効果を有している。しかしいまだに副作用の薬剤性角膜上皮障害に悩まされるケースは多く、特に多剤併用例に高率に発症することが知られている。だが不思議なことに、実際の臨床では多剤を長期にわたり併用していてもまったく上皮障害を生じない症例や、その一方、単剤を短期間使用しただけにもかかわらず重症の上皮障害を発症する症例に遭遇することは稀ではない。なぜ、このようなことがおこるのだろうか?さらには上皮障害の発症を予見し、予防することは可能なのか?
 線維柱帯切除術はMMCの併用により成績が飛躍的に向上した。本術式の眼圧下降効果は濾過胞形成の成否に依存する。つまり生理的な創傷治癒機転に逆らい、いかに大きな濾過胞を維持できるかにかかっている。だが不思議なことに、濾過胞の瘢痕化が進行し消失した後も良好な眼圧下降効果が維持されているケースにも遭遇する。なぜこのようなことがおこるのだろうか?
 本講演ではこれまでに得られた最新のデータをもとに、これら緑内障診療の素朴な疑問にアプローチしたい。